界面活性剤の安全性と環境への影響

これまでお話してきましたように、界面活性剤は私たちの毎日の暮らしやさまざまな産業で使われている身近な製品です。
このため、界面活性剤は私たちの身体に対してばかりでなく環境に対しても好ましくない影響はできるかぎり少ないことが大切です。

 

安全であるということは

天然品はヒトや環境に優しく、合成品は悪影響を与える…と誤解している方もおられます。天然品、合成品を問わず化学物質には、「100%安全なモノ」は存在しません。各々の化学物質が有害か、有害ではないかは、そのものが持つ毒性の強さと使い方の組み合わせによって決まります。毎日、私たちが食べたり飲んだりしている食塩や砂糖、お酒なども摂取する量が多すぎればなんらかの悪影響が現れます。毒性が低くても使い過ぎれば悪影響が出ますし、毒性が高くても正しい使い方と使用量を守れば、安全に使うことができます。安全に使用するためには、それぞれの製品の持つ毒性の強さを知ることとともに、その製品を正しく使うこと(適正な使用方法や使用量など)が必要です。

 

界面活性剤の毒性

界面活性剤の人体や動物に及ぼす影響については、数多くの研究がされており国際的にデータベース化もされています。OECDのガイドラインには、毒性の強さを見極めるための指標が示されています。具体的には急性毒性、反復投与毒性(慢性毒性)、遺伝毒性および生殖毒性などです。
急性毒性の一例として、経口毒性試験を紹介しましょう。この試験は製品を誤って飲んでしまった時の、人体への悪影響を想定するために実施されています。毒性の強さを知るために、対象となるもの(化学物質)を動物に食べさせ、その試験に用いた動物の半数が死に至る量を測定します。もし少量の摂取でも動物が死に至れば、強い毒性を持っていると判断できます。大量に摂取しても死に至らなければ、毒性は弱いことになります。

超毒性 強毒性 中程度毒性 軽度毒性 事実上無害
フグ毒 ニコチン アンモニア
カフェイン
カチオン
界面活性剤
食塩
石けん
合成洗剤

お茶やコーヒーに含まれているカフェインそのものの毒性は中程度であり大量に摂取すると危険です。しかし日常生活での摂取量であれば健康に悪影響は有りません。
なお動物愛護を目的として、動物を用いない代替試験法の開発が積極的に進められ、それらの実施も進んでいます。

 

代表的な界面活性剤の危険性の分類

界面活性剤は極めて多種類でその危険性もさまざまです。製品をユーザーまで安全に輸送するために、これまで述べてきた界面活性剤の人体や動物への影響データから、私たちは危険性をラベルに表示しています。またSDS(製品安全データシート)を添付することによって、使用する方々の安全確保への配慮に心がけています。この方法は国際的にも採用が進んでいて、GHS(化学物質の分類および表示に関する世界調和システム)と呼ばれています。

 

界面活性剤の環境への影響

家庭からの排水に界面活性剤は含まれていますが、そのほとんどが公共の下水処理場で処理されて環境中に排出されます。
しかし、一部は何の処理も受けないで河川などに流出したり、土壌中に排出されることも考えられるため、界面活性剤の環境での自然浄化(生分解など)の程度と環境への影響(水生生物への毒性や生物蓄積性など)を正しく把握する必要があります。

①分解性

界面活性剤は環境中に排出されると、微生物により分解を受けて、最終的には炭酸ガスと水にまで分解されます。このように微生物によって分解されることを生分解と呼んでいます。界面活性剤には数多くの種類のものがありますので、素早く生分解されて自然界から無くなるものと、完全に分解されるまでにかなりの時間を要するものもあります。日本では自然環境の保全を目的として、生分解性が良いものの開発が行われ、積極的に使用されています。

②環境毒性

環境の維持・保全を行う指標の1つとして、環境毒性を評価することがあります。主に水生生物への界面活性剤の毒性評価を行うことで、環境への影響の大きさを予測しています。水環境はそこに生息している生物の食物連鎖の中でバランスが保たれていることから、藻類、ミジンコおよび魚それぞれに対する界面活性剤の毒性を調べます。一連の試験を行うことで、水環境に悪影響を及ぼさない濃度を予測することができます。また実際に河川や湖沼、海から水を採取して化学分析することにより、水環境中での界面活性剤濃度を測定できます。水を採取する場所を多くすることで、平均的にどの程度の濃度であるかの予測ができます。水環境中で悪影響を及ぼさないと予測される濃度(PNEC)と水環境中に存在している界面活性剤濃度の予測値(PEC)とを比較することで、環境を保全できるかどうかが判断できます。この作業を環境リスクアセスメントと呼んでいます。もし界面活性剤の環境中の予測濃度(PEC)が無影響濃度(PNEC)より充分に低ければ、現在の環境が保たれ、環境へのリスクは小さいと考えることができます。
代表的な界面活性剤の4品種について、日本の都市部での環境予測濃度とそれぞれの環境無影響濃度の予測値を対比して示します。
全ての品種で環境濃度は無影響濃度をはるかに下回っています。このことから、これらの界面活性剤による環境への悪影響は生じにくい(リスクは低い)と考えられます。

活性剤の略称 環境濃度の予測値(PEC) 無影響濃度の予測値(PNEC)
LAS 31μg/L 270μg/L
AE 3.5 110
DAC 2.7 94
AO 0.1 23

注)LAS:直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩 代表的な陰イオン界面活性剤であり、衣料用洗浄剤などに用いられます。
      AE:ポリオキシエチレンアルキルエーテル 代表的な非イオン界面活性剤であり、衣料用洗浄剤などに用いられます。
      DAC:ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド 代表的な陽イオン界面活性剤であり、衣料用柔軟剤などに用いられます。
      AO:アルキルジメチルアミンオキシド 代表的な両性界面活性剤であり、身体用洗浄剤や台所洗剤などに用いられます。

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